なぜテレワークは広がらないのか
著者・太田 肇
新潮新書、定価836円(税込)
日本のビジネス社会に定着したかにみえるテレワークという働き方だが、いまいち広がりを欠いている。2年前、新型コロナの最初の感染拡大で、多くの企業があわてて実施したものの、第2波、第3波と続く感染に慣れるに従って実施割合は減り、現在まで"低位安定"が続いているのだ。テレワークで仕事をしたい人が圧倒的に多いのに、なぜなのか。
本書は、そんな素朴な疑問に対して「承認欲求」というキーワードで分析を試みている。承認欲求と聞けば、自分を他人に認めてもらいたい欲求と考えるのが普通だが、それがなぜテレワークの普及を妨げる要因となるのか。そこには日本に特有のビジネス風土が強く絡んでおり、本来なら自然であるはずの人間心理が日本型に"カスタマイズ"されてしまったからという。
本書は序章の「テレワークの普及を阻む、最大の壁」に始まり、「テレワークうつ」「見せびらかし文化」「チラ見せ」など4章で構成。各種調査や豊富な事例を織り交ぜ、かなり皮肉なタッチで日本のビジネス社会の特異性をあぶり出している。最後は出社とテレワークを組み合わせた「ハイブリッド型」の働き方が主流になると、常識的な予測で締めくくっているが、日本人の働き方が大きな変革期に来ているだけに、示唆に富む1冊だ。(本)