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2022年5月 5日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」121・パワハラ防止法とSOGIハラ

Q 2022年4月からパワハラ防止法が中小企業にも施行されましたが、パワハラだけでなくSOGIハラも対象になると聞きました。具体的には、どのような点に気をつけるべきですか。

koiwa1.png パワーハラスメント防止を規定したパワハラ防止法(労働施策総合推進法)は2020年6月に大企業に施行され、2022年4月からは中小企業も含めてすべての事業所に適用されました。この法律では、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」(30条の2)というパワハラの定義が置かれ、パワハラ防止についての周知・啓蒙や労働者からの相談窓口の設置、パワハラ発生時の適切な対応と再発防止などが事業主に義務づけられました。法律の施行に前後して、パワハラ防止についての研修や説明会などを実施した事業所も少なくないと思います。

 パワハラは、同じ職場の上司や先輩などが仕事の範囲を超えて、部下や後輩に度が過ぎた嫌がらせをしたり、権限を悪用して働きづらくさせたりする例が典型的ですが、SOGIハラも含まれるとされています。SOGIハラとは、性的指向や性自認に関連した、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを行うことや、望まない性別での生活の強要、不当な異動や解雇をすることをいいます。SOとはセクシュアルオリエンテーション(性的指向)のことで、恋愛対象となる性を指し、GIとはジェンダーアイデンティティで、自分自身をどの性別に認識するのか(心の性)ということを指します。

 パワハラ防止法の具体的な取り組み内容については、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)で定められています。この中では、パワハラの6類型(①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過小な要求、⑤過大な要求、⑥個の侵害)が紹介されていますが、②精神的な攻撃の該当例として「性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うこと」が挙げられ、⑥個の侵害の該当例として「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」、該当しない例として「労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと」が挙げられています。

 相談者・行為者などのプライバシーの保護に関しては、「性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれる」とされ、事業主が労働者からの相談を受けたり再発防止策などを講じる場合に、事業主の責務として個人情報を守りプライバシーを保護するよう注意が喚起されています。相談窓口の担当者として労働者に対応したり、再発防止のための措置を講じる上司などがこうした個人情報に触れる場面では、十分な配慮が求められることになります。

 なお、SOGIハラについてはいわゆるLGBTなどのセクシャルマイノリティーの人がもっぱら対象となるのではと考える向きもありますが、行政通達では「相手の性的指向・性自認の如何は問わないものであること」(雇均発0210第1号)と明記されており、セクシャルマイノリティーに限らずマジョリティーに対するハラスメントも十分に想定し得ます。例えば、男性社員に対して「男は一家の稼ぎ頭になって一人前」という価値観のもとに、不用意に多人数の面前で執拗に結婚の意思について尋ねたり、本人の意思を確認することなくいわゆる「出世コース」を前提としたキャリア観を職務上の権限を行使する形で押し付けたりしたような場合は、言動の度合いや周囲の環境、本人の受け止め方によってはハラスメントに該当し得ることがありますので、十分に注意したいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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