ウクライナ紛争をきっかけに、北欧のフィンランドがNATO(北大西洋条約機構)加盟に動いているとの情報に接し、20年ほど前に同国を訪れた時のことを思い出した。夏の首都ヘルシンキから国内機で北極圏のラップランドへ行き、そこからマイクロバスでロシア国境近くを延々と北上するツアーだった。
その間、現地ガイドがロシアとの因縁を細々と話してくれた。ロシアの圧政に長年苦しんだが、20世紀初頭のロシア革命を機に独立。しかし、第1次、2次世界大戦で対ロシア戦、内戦、対ドイツ戦と戦いが続き、ようやく平和が訪れたのは2次大戦後。「大国に隣り合う小国が生き残るのは大変」と述懐しながら、独立後もロシアに対する"面従腹背"のような付き合い方を余儀なくされる息苦しさものぞかせた。
ラップランド地方はトナカイの放牧が盛んで、至る所に「トナカイ放牧場」の道路標識がある=写真。野生のトナカイは国境と無関係に、牧草を求めて両国を行き来するというが、「トナカイもわが国からロシアへ行こうとはしませんよ」というガイド氏のジョークに、車内は大いに沸いた。同時に、「トナカイが安心してエサ探しのできる平和こそが大事」という結論に心底うなずいた。
だが、80年近く続いた平和がにわかにキナ臭くなっている。国境をはさんで両国軍がニラミ合いを始めたら、トナカイたちはどうするだろうか。あのガイド氏なら「危険を察してこちらに大量に逃げてくる」なんて言うだろうな。が、そんな事態にさせない外交努力こそ、トナカイも望んでいるのではないだろうか。そんな気分になる。(俊)