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2022年4月21日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」119・派遣労働者のキャリア形成に向けた取組事例集①

Q 厚生労働省から「派遣労働者のキャリア形成に向けた取組事例集」が公開されたと聞きましたが、どのような内容なのでしょうか。

koiwa1.png 2022年3月に「派遣労働者のキャリア形成に向けた取組事例集~同一労働同一賃金に向けた取組を踏まえて~」が厚生労働省から公開されました。派遣法関係の事例集としては、2019年の「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(労働者派遣業界編)」、2021年の「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」に続くものですが、今回の事例集では、派遣労働者に対して効果的なキャリア支援を行うための取り組みの具体的な手順についてまとめられています。

 以下の構成ですが、前半の第1章から第3章では派遣元や派遣労働者に対するアンケート調査などをもとに派遣労働者のキャリア形成に向けた取り組みの考え方や進め方が整理され、後半の第4章では10社の派遣元の事例を具体的に取り上げてキャリア形成の課題と効果について紹介されています。

第1章 派遣労働者のキャリア形成に向けた支援の現状と課題
 ・派遣労働者のキャリア形成に向けた支援の意義
 ・派遣労働者のキャリア形成に向けた支援の現状
 ・キャリア形成を支援する上での課題
第2章 派遣労働者のキャリア形成支援に向けた取組の考え方
 ・派遣労働者のキャリア形成支援に向けた取組とは
 ・派遣労働者のキャリア形成支援に向けた取組の進め方
 ・本事例集の特徴 ~重視する取組の内容~
第3章 派遣労働者のキャリア形成支援に向けた取組の進め方
 ・解説の構成
 ・STEP 1 現状分析と目標設定
 ・STEP 2 取組の選択
 ・STEP 3 取組の検討
 ・STEP 4 取組の実施
第4章 派遣労働者のキャリア形成に向けた取組事例
 ・事例掲載企業一覧
 ・個社の取組事例の紹介


 前半では2021年6~8月に実施されたアンケート調査に基づいて派遣労働者のキャリア形成の現実と課題、それらを踏まえた取り組みの検討や実施について解説されていますが、キャリア支援の現状について、「派遣労働者が仕事に求めていること」は、第1位「雇用や報酬が安定していること」(56.7%)、第2位「ワークライフバランス」(44.6%)であり、「派遣労働者の能力評価における課題」は、第1位「派遣先によって評価情報が異なるため、評価基準への当てはめが難しい」(36.1%)、第2位「派遣先の業務を通して向上した能力を評価することが難しい」(28.7%)とあるのは、現場の声を反映した意識調査の一端として、とても興味深いところです(4ページ)。

 取り組みの進め方については、①現状分析と目標設定→②取り組みの選択→③取り組みの検討(キャリア形成の意識向上支援、キャリア形成の計画作成支援、能力開発支援)→④取り組みの実施の4つのステップが描かれていますが、たとえば取り組みの検討にあたって、「派遣労働者の意識が高くない原因」について、「キャリア形成をイメージできない」「どうすればキャリア形成できるかが分からない」といった具体的な項目が挙げられ、それぞれについて対策(例)が紹介されている点なども、現場目線が反映されたリアルな取り組み事例として参考にできるでしょう(13ページ)。40ページほどの冊子で図や表が多く読みやすい体裁ですので、ぜひ一度は目を通したいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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