Q 労働局の調査では需給調整指導官が担当し、労働基準監督署の調査では労働基準監督官が担当しますが、どのような違いがあるのでしょうか。
A 労働者派遣事業を営んでいると、労働局や労働基準監督署の調査を受けたり、指導を受けることがあります。派遣業の許可申請・更新、派遣契約や事業報告書などの派遣法関係は労働局、労働契約や36協定などの労基法関係、職場の安全や労働者の健康管理など安全衛生法関係は労働基準監督署が対応することになります。両者は、似ている部分もあれば異なるところもあります。
労働基準監督官は、労基法に基づいて職掌や身分が規定されており、「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」(101条)とされ、「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」(102条)とされています。また、「労働基準監督官は、職務上知り得た秘密を漏してはならない。労働基準監督官を退官した後においても同様である」(105条)とされており、これに反した場合は監督官自身が30万円以下の罰金に処せられます。
需給調整指導官については、派遣法において「厚生労働大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、所属の職員に、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所その他の施設に立ち入り、関係者に質問させ、又は帳簿、書類その他の物件を検査させることができる」(51条1項)とされ、「前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない」(同2項)とされています。派遣法の許可や行政指導、処分は厚生労働大臣が行うことになっていますが、一部の権限は都道府県労働局長に委任されています(56条)。
派遣法に基づく行政指導には、助言・指導、是正指導、是正勧告がありますが、労働基準監督官がその個人の権限で是正勧告書を交付するのに対して、需給調整指導官はいったん労働局に持ち帰って是正勧告書などを交付することで時間を要することもあります。また、指導官には労働基準監督官のような司法警察員としての権限はありませんので、悪質・重大な事案だからといって自らが送検手続きをとることはありません。
一方で、需給調整指導官は派遣事業の許可権者である厚生労働大臣の権限に基づいて、事業所への立ち入り、関係者への質問、帳簿・書類その他の検査などを行うことができますので、その結果として事業改善命令、事業停止命令、許可取消といった厳しい行政処分が下されることがあります。この点は許可権限に基づくものであり、労働基準監督官とは性格を異にするものだといえます。このような行政の役割を理解した上で、円滑な事業運営に資すための行政指導などに協力していきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)