ロシアによるウクライナ侵攻が「第1次情報大戦」、実戦と情報を交えた「ハイブリッド戦争」と呼ばれることには納得できる。ウクライナの被害映像がテレビなどに連日流され、SNSを通じた有象無象の情報が大量に行き交う。ロシアはロシアで、ウクライナはウクライナで、自国に有利な映像や情報を流し、その中には明らかにフェイク(嘘)ニュースと思われるものも少なくない。
この「情報戦」では、どちらが優位に立っているか。明らかに、「被害者」の立場を強調できるウクライナ側が圧倒している。市街地がロシアの攻撃にさらされ、けが人が次々と病院に運ばれてくる。幼児を抱えた母親ら、大量の避難民が隣国に押し寄せる。これらの映像に下手な解説は不要であり、ウソは通用しない。ロシア外相が国連で産科病院への攻撃を非難された際、「病院に妊婦はいなかった」と発言したら、翌日に出産した母子の映像が流れ、外相は世界中のモノ笑いの種になった。
しかし、最大の問題は、これらの情報が「加害者」のロシア国内になかなか広がらないことだ。ロシア政府は市民の反戦デモを徹底的に取り締まり、客観情報を流す独立系メディアを解散させ、軍に不利な情報を流せば即逮捕できる法改正までした。太平洋戦争に踏み切った戦前戦中の日本をほうふつとさせる。
当時の日本には新聞やラジオぐらいしか情報手段はなく、政府も国民をだますのにそれほど苦労しなかった。それに比べると、現代のSNSははるかに厄介だ。ロシア政府もそれは承知していて、フェイスブックなどの利用を厳しく制限しているが、完全に防ぎ切れるはずもない。ソ連崩壊の引き金となった東欧諸国の「衛星放送革命」は、わずか30年ほど前の出来事だ。ロシア政府は、情報敗戦の教訓をもう忘れてしまったのか。(本)