Q 傷病手当金の支給期間の通算化の改正がありましたが、資格喪失後の継続給付の場合はどうなりますか。
A 1月からの健康保険法の改正により、傷病手当金の支給期間の通算化が行われ、同一の傷病についての傷病手当金は支給開始日から通算して1年6か月に達する日まで対象となったことは、前回のコラムで触れました。この改正によって、休職と復職を繰り返すような受給者の保護がはかられることにより、治療と仕事の両立に向けた環境整備が一歩進んだといえます。ところで、資格喪失後の継続給付と今回の傷病手当金の改正との関係については、どのように考えるべきでしょうか。
資格喪失後の継続給付とは、保険給付を受けている人が退職などにより被保険者の資格を喪失した後も一定の要件を満たした場合に保険給付が受けられる制度のことをいい、傷病手当金や出産手当金が該当します。これらの給付は所得補償的な意味合いが強いため、資格喪失によって急激に生活の糧を失うことへの配慮として、資格喪失後の継続給付の仕組みが置かれています。継続給付を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
②資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること。なお、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金は支給されない
①と②を両方満たした場合に資格喪失後の継続給付が受けられますが、②の要件にはとりわけ注意しなければなりません。今回の改正によって傷病手当金の支給期間の通算化が認められるようになり、継続給付の場合にも適用されますが、当然のことながら「資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしている」(②)という要件を満たさない限り、継続給付を受けることはできません。
また、継続給付については、「一時的に労務可能となった場合には、治癒しているか否かを問わず、同一の疾病等により再び労務不能となっても傷病手当金の支給は行わない」(「傷病手当金及び任意継続被保険者制度の見直しに関するQ&A」2021年11月10日)とされています。これらの点について、改正によって1年6か月間はいかなる場合でも通算されるようになったと誤解していると、落とし穴にはまる可能性もあるので注意したいものです。
なお、上記の要件はあくまで継続給付のためのものですので、事業所に勤務する被保険者として受ける傷病手当金の権利に影響するものではありません。したがって、退職日に出勤したり、健康状態が回復して労務可能となるなどの理由で継続給付としての傷病手当金を受けられなくなった場合でも、再就職して新たな被保険者の資格を取得した場合は、同一の傷病について過去に受けた傷病手当金の未支給期間分の手当金を申請できる可能性があります。派遣労働者が傷病を受けたような場合でも、このような事例が起こるケースもあると考えられますので、改正点と併せて継続給付のポイントについてもおさらいしておきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)