Q 新たな年を迎えましたが、今年も企業経営に影響の大きい労働法をめぐる改正が続くといわれています。新たな動きが見られるコロナウイルスをめぐる動向も気になりますが、2022年の労働法や社会保障制度の改正の流れについてお教えください。
A 新年明けましておめでとうございます。今年も一年間このコラムを執筆させていただく、社労士の小岩です。3年目の担当となりますが、今年もタイムリーな話題や現場で役立つ知識などを分かりやすくお伝えしていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。
2022年も昨年に引き続き労働法や社会保障をめぐるさまざまな改正が予定されています。4月からのいわゆるパワハラ防止法の中小企業への施行や、男性の育児休業取得を推進する育児・介護休業法の大幅な改正は、さまざまな場面で話題になり現場対応の必要性が叫ばれていますが、短時間労働者の社会保険適用拡大なども企業経営に直結する大きな改正点だといえます。すでに確定している2022年の主な改正点を以下に整理します。
2022年1月~ | 雇用保険マルチジョブホルダー制度(高年齢被保険者の特例) 傷病手当金の支給期間の通算化 |
4月~ | いわゆるパワハラ防止法(中小企業) 育児・介護休業法(雇用環境整備、育休周知・意向確認など) 女性活躍推進法(行動計画・情報公表) 年金制度改正法(在職年金、受給開始時期など) |
10月~ | 短時間労働者の社会保険適用拡大(中小企業) 育児・介護休業法(産後パパ育休、分割取得など) 雇用保険料の引き上げ |
雇用保険のマルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が一定の要件を満たす場合に申し出を行うことでマルチ高年齢被保険者となれるというもので、就業が不安定になりがちな高齢者の雇用安定や就業意欲の向上が期待されます。傷病手当金の支給期間通算化は、原則1年6か月の支給期間中に出勤しても期間が通算されることにより、がん治療のように休職と復職を繰り返すケースにも対応できるようになります。いずれも時代を反映した改正内容だといえるでしょう。
パワハラ防止法や育児・介護休業法については昨年のコラムでも何度か触れましたが、女性活躍推進法も含めてこれらの改正内容に共通するのは、従来の昭和的な性別役割分担の発想から脱却して、男性も女性も変わりなくありのままに活躍できる多様性が求められているという社会的な要請が根底に流れている点です。年金制度改正法の目的が、女性や高齢者の就業促進などを通じて、より多くの人がより長く多様な形で働ける状況に対応することにある点とも一貫しているといえるでしょう。法改正への対応にあたっては、制度の内容そのものを的確に把握することはもちろんですが、こうした趣旨を通じて横断的に理解を深めていくことも大切でしょう。
そして、労働法や社会保障制度そのものではありませんが、1月からの電子帳簿保存法や個人情報保護法の改正や4月からの民法改正による成人年齢の引き上げ、6月までに施行される改正公益通報者保護法なども実務への影響が大きいと思います。全体としては事業者の利便性の向上や規制緩和の方向の改正点になりますが、成人年齢の引き下げについては入社などにともなって労働者と会社などが個別契約を結ぶ場面への影響があると考えられますので、事前の対応を万全にしておきたいものです。
2022年はここ2年ほどコロナ禍に苦しめられた社会がポストコロナ、アフターコロナに向かえるかの岐路に立つ一年になりますが、同時にコロナの苦難によって奇しくも加速されたインフラによる場所的・時間的拘束を超えた働き方への環境整備や、多様な人材による多様な雇用形態に向けての取り組みが具体的に前進していく一年にもなりそうです。みなさんがそれぞれの立場でより充実した職業人生を送るための一歩となるよう、頑張っていきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)