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2021年12月 2日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」100・過半数代表者への立候補がない場合の対応

Q 労働者の過半数代表者の選出をするにあたって、立候補者や推薦者がいなくて困っています。どのように対応すべきでしょうか。

koiwa1.png 労基法の36協定を締結したり、派遣法で労使協定方式を採用する場合は、労働者の過半数代表者を選出しなければなりません。とりわけ派遣法の場合には、「過半数代表者が適切に選出されなかった場合には、法第30条の4第1項の協定とは認められず、派遣先の通常の労働者との均等・均衡により待遇を確保しなければならない」とされているため、労使協定方式の成否に関わる問題となります。

 厚労省のリーフレット「過半数代表者の適切な選出手続きを」でも、「選出手続きは、投票や挙手の他に、労働者の話し合いや持ち回り決議などでも構いませんが、労働者の過半数がその人の選任を支持していることが明確になる民主的な手続きが必要」「会社の代表者が特定の労働者を指名するなど、使用者の意向によって過半数代表者が選出された場合、その協定は無効」とされていることから、労働局の調査などでも厳しく実態確認が行われます。

 立候補者や推薦者がいない場合でも、会社側が特定の人を指名したり推薦するように働きかけることは許されないため、何らかの方法で期限内に労働者側の自発的・民主的な方法によって代表者が選任されるような仕組みを作ることが大切です。この点について「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」では、「立候補者が現れず代表者を選出できない」場合への対応策として、「代表者選出の意義の説明」と「推薦者の募集」を推奨しています。「立候補者が出ない場合は適任者の推薦を募る。なお、推薦者が出た場合、推薦された者の意思を確認したうえで立候補者とする」といった例は、現場感覚に寄り添った手法として参考にできるでしょう。

 それでは、具体的に推薦者を募るにはどのようにしたらよいのでしょうか。漠然と社内に掲示したりメールなどで周知しても、具体的に適任者が推薦されずに期限を徒過したのでは意味がありません。ひとつの方法としては、内規などの規定を置いて推薦委員会を設置する方法が考えられます。部や課などのセクションごとに推薦委員を選出して、委員で構成される委員会で適任者を推薦する方法であれば、無理なく選出手続きを進めることができると思います。この場合は、実質的に使用者の意向が選出に反映されるようなことがないように配慮する必要があるでしょう。

 他には、安衛法で常時50人以上の事業場に設置が義務付けられている衛生委員会(安全衛生委員会)で、適任者の推薦を議論する方法も考えられます。かなりマニアックな法律ですが、労働時間設定改善特別措置法では、一定の要件を満たした衛生委員会などを労働時間等設定改善委員会とみなして、5分の4の議決によって過半数労働者との協定に代替すると規定されています。

 この規定自体はあくまで労基法の労使協定に関するものであり、2022年3月31日までの経過措置ではありますが、法律の趣旨としては過半数代表者の選出手続きに通じるかもしれません。推薦者を選出する上での参考にしたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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