労働制度の矛盾を解きほぐす
著者・濱口 桂一郎
岩波新書、定価1066円(税込)
メディアなどで喧伝される「ジョブ型」雇用は、働き方改革の一環として注目されていたところへ、新型コロナ禍に伴うテレワークの普及などでさらに注目度が高まった。しかし、著者によれば日本における「ジョブ型」の概念は間違いだらけで、これでは雇用制度の改善には役立たない。"義憤"に駆られて書き上げたのが本書である。
「間違いだらけのジョブ型論」を序章に、「入口と出口」「賃金」「労働時間」「労働組合」など6章で構成。「正社員体制の矛盾と転機」という副題にあるように、男性正社員を中心にした「メンバーシップ型」と対比しながら「ジョブ型」の本質を解説している。
実は、戦後日本の労働法制は欧米型の「ジョブ型」を念頭に作られたが、高度成長期になって日本独自の「メンバーシップ型」が主流となり、それが日本経済の強さともなった。しかし、法制度と労働慣行とのギャップが拡大し続け、それを埋めるものとして裁判を通じた膨大な判例法理が形成されたが、それらは「メンバーシップ型」に沿った内容が多く、新卒採用や解雇規制などに凝縮されている。
著者特有の歯切れの良い論調は爽快だが、法制度と慣行の矛盾の解説とあって、決して読みやすい内容ではなく、難解な部分も多い。しかし、じっくり読むと、なぜ法律と実態がこれほどかけ離れているのか、なぜ過労死や女性差別が放置されて来たのか、といった問題の本質が見えてくる。メディア報道などにいつもつきまとうモヤモヤが晴れていく感覚さえ覚える。(本)