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2021年9月30日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」91・労働・職場調査の方法について

Q 人事部での職務の一環として、職場調査や従業員意識調査を実施したいと考えていますが、何か参考にできる書籍や方法論などはありますか。

koiwa1.png 労働環境や福利厚生面の改善、管理職研修の充実、女性活躍の推進などを目的に企業内でヒアリングや意識調査などを行うことがあります。そのような労働・職場調査について役立つ書籍や情報は意外と少ないものです。筆者が参考にできると思うのは、『労働・職場調査ガイドブック』(梅崎修、池田心豪、藤本真編著)です。この本は主に大学や大学院で労働・職場調査に関わる人向けに書かれていますが、さまざまな調査方法と事例が体系的に紹介されていますので、企業内における調査手法を学ぶ場合にも十分に応用できると思います。

 労働・職場調査には「問い」が必要となりますが、問いには、①実証可能性(実証データに基づいて答えを出すことができるか)、②価値・意義(答えを求めることに学問的・社会的・実務的な意義や価値があるか)、③資源的条件(調査に動員できる経費、時間、マンパワー等の範囲内で答えを求めることができるか)の3つの条件があります。企業内の実務の現場で実施する場合は、とりわけ③の条件も重要な視点になるでしょう。

 本書では、インタビュー、ライフヒストリー、アクションリサーチ、心理統計等のさまざまな調査手法が紹介されていますが、実務目線でもっとも分かりやすいと思われるものの例が「企業・従業員調査(制度の仕組みと機能を明らかにする)」です。ここでは企業内の人事管理をめぐる制度について、アンケートやインタビューを通じて従業員の回答を整理する手法が解説されています。雇用形態ごとにアンケートの配布によって実施された企業内の制度についての調査などは、明快でシンプルな事例として分かりやすいでしょう。

 労働政策研究・研修機構のデータを用いた正規従業員と非正規従業員の待遇の均等度をめぐる調査の結果も紹介されていますが、正規従業員への転換制度の有無に着目した事例などは、調査方法の具体的手法やプロセスだけでなくその結果についての見立てや分析についてもリアルにコメントされています。ここでの分析の結果は、正規従業員と非正規従業員の均等待遇の程度の度合いと企業の業績(営業利益率と競争力)との関係という視点から仮説が紹介されていますが、実務家目線でもとても興味深い視点だといえるかもしれません。実務寄りというよりややアカデミックな視角からの解説書だと感じますが、労働・職場調査の方法についての数少ない実践的な教科書だといえると思います。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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