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2021年9月23日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」90・人材ビジネスの規制の歴史

Q 人材派遣と職業紹介を営んでいますが、人材ビジネスは他の業種と比べても法改正が多く、規制緩和と規制強化が繰り返されていると感じます。なぜ目まぐるしく制度が変遷しているのでしょうか。

koiwa1.png 日本の労働法では、職業紹介事業や労働者供給事業(広い意味の人材派遣を含む)は原則禁止とされており、違反した場合は罰則が予定されています(職業安定法44条)。人材派遣や職業紹介を営むためには、派遣法や職安法の規定に従って許可を受けなければならず、そのためにさまざまな国の規制を受けることになります。

 日本における職業紹介の起源は江戸の世話好きな医師による営みだとされ、奉公人のあっせんなどが続々と成功したのを受けて、それにあやかって事業としようとする人が続出したといいます。江戸末期には500近い職業紹介事業者が存在しましたが、不当な中間搾取などの問題も顕在化したため、明治政府は職業紹介を規制する法律を制定します。そして第二次世界大戦後のGHQ統治によって、職業紹介や労働者供給は厳しく規制されました(『教養としての「労働法」入門』向井蘭編著)。

 1966年、米国のマンパワー社の子会社設立が日本における人材派遣の起源ですが、1985年の派遣法成立後、ニーズの拡大に対応して数多くの派遣会社が誕生しました。そして、1990年代後半から2000年代にかけて、日本経済の低迷による人件費の見直しニーズの広がりやILOの派遣事業容認の動きが重なって、法律の規制もさらに緩和の方向に舵が切られます。製造派遣の解禁は派遣労働者の急激な増加につながり、2008年には労働力調査ベースで140万人に上りました。

 ところが、リーマンショック以降の「派遣切り」「年越し派遣村」などが社会問題となり、派遣事業の規制は再び強化されることになります。日雇い派遣の原則禁止、グループ企業内8割規制などの2012年、許可制への一本化、期間制限の見直しなどの2015年、同一労働同一賃金の2020年改正を経て、人材派遣をめぐる規制は許認可業種の中でももっとも厳しい水準にあることは間違いありません。

 このように、人材ビジネスの規制については、国の雇用政策の流れの中で、そのときどきの社会情勢や世の中のトレンドに大きく影響を受けて、たび重なる改正が繰り返されてきたといえます。その意味では、人材ビジネスの担い手には今の労働市場のリアルな実態やこれからのトレンドの行く末を的確に把握し、柔軟に対応していく誠実さが必要だといえるでしょう。

 今後は、労働政策審議会部会の「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会 報告書」でも触れられているように、職業紹介と募集情報提供(求人メディア)の役割や課題が新たな方向性に向けて再整理されていくことが予想されます。短期派遣や日々紹介などの実態整理に向けて新たな法改正などの動きが顕在化することも考えられますので、秋以降、来年に向けての流れにも注目していきたいものです。

労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会 報告書


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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