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2021年9月 2日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」87・男性の育児休業と「役割意識」の歴史

Q 男性の育児休業が制度化されることもあり、社内で育児休業を取得しやすい職場環境を周知・啓蒙していきたいと思いますが、男女の役割意識の変化についてはどのように考えたらよいでしょうか。

koiwa1.png 育児介護休業法の改正により令和4年から男性の育児休業制度が施行され、周知・意向確認義務、男性育休制度、取得率公表義務が段階的にスタートします。令和2年度雇用均等基本調査では男性の育児休業の取得率は過去最高の12.65%となり、仕事と家庭の両立についての社会的な意識の高まりが見られますが、一方で夫は仕事、妻は家事という昭和的な役割意識も根強く残っており、意識の変革や啓蒙の必要性も指摘されています。

 日本における男女の役割意識の実態については法律や制度面とともに、歴史的な経緯や背景が大きく影響しているといわれます。この点については、中村敏子著『女性差別はどう作られてきたか』(集英社新書)が参考になります。本書では、以下のような点について平易な文章で解説されています。

 江戸時代の「家」における夫婦は一体ではなく、妻は独立性を持って職分を果たし、女性は結婚後も姓を変えることなく、財産権を持ち続けた。妻は「女房」として家政を担当するマネージャーの役割を果たし、「当主」である夫と共同経営者のような立場で、夫婦が助け合いながら「家」(事業)を運営していた。

 明治時代になって、小学校以外は男女「別学」となり、「女戸主」の廃止、「良妻賢母」教育の推進などがはじまった。「家」から男性たちが出て「月給取り」となっていったことで、「家」には妻と子どもが残され、女性は「家」における役割を縮小され、日常の家事と子どもの世話を担当するようになった。

 西洋近代に成立した「公的領域」と「私的領域」の分離が日本においても加速され、いわゆる「近代家族」が成立したことで、男女の役割分担、役割意識がより明確になっていった。

 これからの日本は以下の「3つのモデル」における実質的な選択が迫られている。
 「世帯主モデル」・・・性別分業、女性が家事労働。日本、ドイツ。
 「性別中立モデル」・・・男女平等に働き、外部サービスの充実。アメリカ。
 「性別公平モデル」・・・男女平等に働き、家族生活にも関わる。スウェーデン、オランダ。

 いわゆる 「専業主婦」は必ずしも日本古来の文化や制度という面だけでなく、政策誘導によって社会経済的に創造されたシステムという側面があります。その意味では、本質は男性が「家」から分離して被用者として生産労働の場に従事するシステムと対になっているといえるのかもしれません。

 蛇足ですが、先日筆者がある勉強会で本書の内容をシェアしたところ、「男性が主な働き手として家計を支え、女性が家事や育児を通じて家庭を担うという役割分担の歴史は、意外と新しかった」という点に参加者全員が驚きを隠せずにいました。男性の育休制度の浸透にあたって、すこし参考にできるテーマかもしれませんね。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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