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2021年8月12日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」84・コロナ禍における労働組合との団体交渉

Q 合同労組(ユニオン)から団体交渉の申し出がありました。コロナ禍でもあり、できればオンラインでの対応をしたいと思うのですが、どのように考えるべきですか。

koiwa1.png コロナ禍においても解雇、雇い止めや労働条件の不利益変更などの個別労使紛争をめぐって労働組合から団体交渉の申し入れを受けることがあります。昨今では正社員だけではなく、契約社員やパートタイマー、派遣労働者などの非正規雇用労働者が、誰でも参加できる外部の合同労組(ユニオン)に加入して団交申し入れをしてくるケースもめずらしくありません。労働組合法7条では、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」が禁止されており、聞いたことがない外部の組合であったとしても団交に応じないと不当労働行為となります。労働者が組合に加入したことを理由に解雇したり、不利益な取り扱いをすることも禁じられています。

 団体交渉の方法として、組合との直接の対面を拒否して書面のやり取りを希望することは認められるかどうかが争われた裁判がありますが、「団体交渉は、その制度の趣旨からみて、労使が直接話し合う方式によるのが原則であるというべきであって、書面の交換による方法が許される場合があるとしても、それによって団体交渉義務の履行があったということができるのは、直接話し合う方式を採ることが困難であるなど特段の事情があるときに限ると解すべきである」(清和電器産業事件、東京高判平2・12・26、最判平5・4・6)とされているため、書面のみの団交を求めることは不当労働行為となる可能性があります。

 その上で、コロナの感染拡大防止のためにできるかぎり「三密」を避けた行動や生活様式を取ることは社会全体に求められた共通認識といえ、そのために典型的な「三密」となりがちな直接面談による団交に代替してオンラインツールなどを用いた開催を検討することは、「直接話し合う方式を採ることが困難であるなど特段の事情があるとき」の方法として許容される可能性が高いといえるでしょう。この場合、組合から異論が出た場合に何らかの説明を行わずにやり取りを打ち切ると不当労働行為に該当することも考えられるため、より慎重で丁寧な対応が求められるでしょう。

 労働委員会の命令には、「会社は、組合がビデオ撮影していることを捉えて、継続協議に向けての努力をしないまま一方的に退席し、もって組合からの激しい追求が予想される協議を回避したというべきであり、かかる対応は、正当な理由なく協議を引き延ばした不誠実なものと判断される」(大阪府労委平成29年[不]第28-1号)として、組合のビデオ撮影を理由に協議を拒否した会社の姿勢が不当労働行為とされたものもあります。会社にはあくまで誠実交渉義務がありますので、団交の継続に向けての努力を怠ったり、正当な理由なく協議を引き延ばしたと見なされないような誠実な対応が求められるといえるでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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