Q A社とB社で勤務している労働者が、A社での業務を終えてB社に向かう途中に事故にあい、負傷しました。この場合は労災保険の手続きはどうなりますか?
A 労災保険法では、労働者の負傷、疾病、障害、死亡などについて、業務遂行性(労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること)と業務起因性(災害と業務との間に一定の因果関係があること)が認められる場合は業務災害、労働者が就業に関して合理的な経路および方法で、住居と就業の場所との間を往復する場合などを通勤災害として、必要な給付などを行うこととされています。
複数の勤務先を持つ労働者が、最初の勤務先での就業を終えて次の勤務先へ向かう移動については、移動後の勤務先における労務の提供に不可欠なものであることから、この間の移動は、同一の事業主における事業場間の移動(支店や営業所など)の場合を除いて、「通勤」として取り扱われることになっています。したがって、ご質問のケースでは、移動中に積極的な私的行為が認められるなどの事情がない限り、原則として通勤災害に該当すると考えられます。
令和2年9月施行の労災保険法の改正により、目的条文に従来の業務災害、通勤災害に加えて、「事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下『複数事業労働者』という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由」が追加されています。多様な働き方や副業・兼業の増加などの変化を踏まえ、複数の事業で就業する労働者が安心して働くことができる環境の整備を目指す改正により、より就業の実態を反映した保険給付が行われることになりました。
改正により、複数事業労働者(被災した時点で事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者)については、それぞれの就業先の事業場で支払われている賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額(保険給付の算定基礎となる日額)が決定されることになります。例えば、A社で月給30万円、B社では月給15万円、直近3カ月の暦日数が90日の場合は、
A社・・・30万円×3カ月÷90日=1万円
B社・・・15万円×3カ月÷90日=5000円
A社+B社・・・1万円+5000円=1万5000円
となり、給付基礎日額は1万5000円として取り扱われることになります。労災保険給付の申請書は、通常は災害などが発生した事業場を管轄する労働基準監督署に提出することとなりますが、複数の事業場で就業している場合は、各事業場の管轄労基署のいずれかに提出することになります。複数事業労働者の場合は、複数就業先の賃金額等について把握するため、給付の申請にあわせて別紙様式(様式第8号)を提出する必要がある点にも留意したいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)