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2020年11月10日

【ブック&コラム】『音楽の危機~第九が歌えなくなった日』

コロナ禍が直撃した演奏会、ライブ

c201110.jpg著者・岡田 暁生
中公新書、定価820円+税


 新型コロナウイルスの猛威で大きな影響を受けた分野の一つに音楽がある。コンサートやライブが次々と中止され、「生の音楽」が一時、世界から姿を消した。もちろん、日本も例外ではない。これは「音楽の危機」なのか、それとも「変化のきっかけ」なのか。本書は鋭く問い掛ける。

 「社会にとって音楽とは何か」に始まり、「間奏」をはさむ7章で構成。これまで当たり前に開かれてきた演奏会の「もろさ」がコロナで浮き彫りなった。その象徴がベートーベンの第九交響曲であり、演奏会場、大規模なオケと合唱団、客席を埋める聴衆は、まさに「3密」そのもの。今年は年末恒例行事だった第九が"存亡の危機"を迎えている。

 第九に限らず、多くのコンサートやライブなども同様な危機にあるが、一部には「ライブがダメでもCDやDVDがあるから危機ではない」という考えもある。が、著者はこれらを「録楽」と呼び、3密下でしか味わえない一体感を醸し出すライブとは峻別する。さまざまな修正をほどこして商品化した「録楽」と生の音楽は別物なのだ。

 では、コロナが終息しない限り、音楽はこのまま姿を消す運命にあるのか。ここで著者は、3密を前提にしてきた近代音楽とは異なる、「現代音楽」のさまざまな実験などを例に挙げ、ポスト・コロナにおける音楽のあり方を展望している。学術的な記述も多く、決して読みやすいとは言えないが、示唆に富む内容であることは疑いない。(典)

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