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2020年11月 5日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」45・最高裁判決③日本郵便事件

Q 10月に非正規雇用の待遇についての最高裁判決が相次いで出されました。そのうち日本郵便事件はどのような内容だったのでしょうか。

koiwa.png 前回までは大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件について取り上げましたが、同じ10月15日に判決文が出たのが日本郵便事件です。この事件では、正社員と非正規雇用との待遇差のうち、主に扶養手当などの諸手当と、夏季冬季休暇などの休暇が論点となりました。結論としては、大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件で使用者側の主張が受け入れられたのに対して、日本郵便事件は労働者側が勝訴したといえます。

 事件で争点となったのは、扶養手当、年末年始勤務手当、祝日給、夏季冬季休暇、病気休暇です。これらの手当や休暇制度はいずれも「労働条件の相違は、いずれも労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である」と判断されています。判決文の論点となった箇所を引用して簡潔に整理すると、以下のようになります。

扶養手当 「正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的」
「契約社員についても,扶養親族があり,かつ,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,扶養手当を支給することとした趣旨は妥当する」
年末年始勤務手当 「最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有する」
「年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,本件契約社員にも妥当する」
祝日給 「年始期間の勤務に対する祝日給は,特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて,その代償として,通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたもの」
「最繁忙期における労働力の確保の観点から,本件契約社員に対して上記特別休暇を付与しないこと自体には理由があるということはできるものの,年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は,本件契約社員にも妥当する」
夏季冬季休暇 「郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは,年次有給休暇や病気休暇等とは別に,労働から離れる機会を与えることにより,心身の回復を図るという目的によるもの」
「時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされるなど,繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって,夏期冬期休暇を与える趣旨は,上記時給制契約社員にも妥当する」
病気休暇 「私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるもの」
「上記目的に照らせば,郵便の業務を担当する時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当する」

 非正規雇用の労働条件が不合理かどうかは、①業務の内容、②業務に伴う責任の程度、③業務の内容・配置の変更の範囲、④その他の事情によって判断されることになりますが、上記の手当や休暇については最高裁によって使用者側に厳しい判断が下されたことになります。手当の支払いや休暇付与の基準があいまいな場合は、最低限のルール化と運用の適正化が必須だといえるでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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