中流社会は初めから幻想だった?
著者・橋本 健二
朝日新聞出版、定価850円+税
コロナ禍を契機に改めて「中流」が総崩れにある現実を資料ベースで考察した1冊。「1億総中流」の起源を巡っては1970年の国民生活白書にさかのぼりつつ、そもそも当時から"意識"の話であって、収入・地位・財産の実態は中産階級の充足に至っていないと指摘する。
その後1980年代まで「総中流」は常識と見なされていたが、やはり実相は虚構であり、むしろ格差はその頃から拡大が始まったと突き止めている。とりわけ1970年代の「総中流」から今日の「格差社会」までを5期に区切り、雑誌の特集や書籍のタイトルで振り返る記述は学術を超えて楽しめる。また,現在の「中流」を、①新中間階級(ホワイトカラー・専門職)、②旧中間階級(独立・自営)に分けたうえで独身・夫婦・退職後の所属階級を基準に11通りに分類・整理する試みは圧巻だ。
最終章では「中流の再生」を模索。その実現にあたっては、中流保守(貧困自己責任論者)から中流リベラル(所得再配分支持者)までを緩やかに連携させる政治的立場を超えた検討が問われるとしている。
(久島豊樹/HRM Magazine より)