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2020年10月22日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」43・最高裁判決①大阪医科薬科大学事件

Q 10月に非正規雇用の待遇についての最高裁判決が相次いで出されました。そのうち大阪医科薬科大学事件はどのような内容だったのでしょうか。

koiwa.png 10月14日に大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件、15日に日本郵便事件の判決が出され、10月は最高裁の判決ラッシュとなりました。大阪医科薬科大学事件は主に賞与、メトロコマース事件は主に退職金、日本郵便事件は主に諸手当と休暇制度について判断されましたが、いずれも正社員と非正規雇用との待遇差が論点となっています。

 大学アルバイト職員の賞与が争点となった大阪医科薬科大学事件では、賞与の性格について「業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる」と判断され、「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとした」としています。

 賞与の支給の目的は、正職員に相応しい職務遂行能力を持つ人材の確保や定着を図ることにあり、労務の対価の後払いや将来の労働意欲の向上などの趣旨を含んでいたとされます。就業規則などにおいても正職員のみに賞与が支給されるとされていたことから、アルバイト職員は対象外とされている判断が基本的に肯定されたといえます。

 正職員の業務が学内の英文学術誌の編集事務、病理解剖に関する遺族などへの対応や部門間の連携、毒劇物など試薬の管理業務など、かなり高度な内容を含んでいたのに対して、アルバイト職員の業務が「相当に軽易」であったことや、正職員には就業規則に基づく人事異動を命じられることがあったのに対して、アルバイト職員には原則として配置転換がなかったことも、賞与をめぐる判断に影響しています。

 さらにこれら以外の評価・判断要素としては、正社員(職員)登用制度が挙げられます。同社ではこうした制度が存在するだけではなくて、現実に運用されていたことが争点の判断要素のひとつとなったといえるでしょう。判決文には以下のように記載されています。

アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については,教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。) として考慮するのが相当である。

 中小・零細企業では正社員登用制度が採用されていなかったり、現実に機能していなかったりする例も少なくありませんが、今回の最高裁の判断を受けてこれからの人事労務管理の一環として具体化していく必要性が高いといえるかもしれません。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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