Q 毎年6~7月に公開されるとされている派遣法の「一般賃金」が秋に延期されましたが、実務的にはどのような点に留意すべきでしょうか。
A 今年4月に施行された派遣法の同一労働同一賃金では、労使協定方式を採用した場合には「一般賃金」が適用されます。毎年6~7月に次年度の一般賃金が公開されることとされており、昨年は局長通達が7月8日に公表されましたが、厚生労働省は7月29日、令和3年度分の発表を秋に延期することを発表しました。
令和3年度に適用される同種の業務に従事する一般の労働者の賃金(一般賃金)の額等について(令和2年7月29日)
「現時点では、新型コロナウイルス感染症による雇用・経済への影響の先行き等が明らかではないため、できるだけぎりぎりまで見てお示しすることが必要と考えております」とされており、コロナウイルスの経済や雇用への影響が深刻なため、夏の段階で従来の統計数値をそのまま適用できる状況ではないと判断されたと考えられます。
一般賃金は賃金構造基本統計調査と職業安定業務統計を基準に水準が設定されますが、いずれも2年前の統計が基準とされます。人手不足で好景気の真っただ中で東京オリンピックを控えた高揚感に溢れていた時期の数値を、コロナ禍の状況に苦しむ時期に適用するのは厳しい面があるでしょう。
令和3年度の最低賃金について都道府県の審議会の答申が出揃いましたが、軒並み1~3円アップか据え置きの水準となっています。最低賃金と一般賃金とはそもそも趣旨や決定方式が異なりますが、コロナ禍による厳しい雇用環境が影響することは間違いないため、おそらく最低賃金の全国的な傾向と同じように、おおむね「令和2年度水準」の数値となる可能性が高いと予想されます。
労使協定方式を採用している派遣元では、改正法の施行初年度からイレギュラーな一般賃金の更新を迎えることになるため、新たな水準への対応、派遣先との交渉、労使協定の更新、その他の実務対応がとてもタイトなスケジュールになると思います。場合によっては、労使協定方式の見直しや派遣先均等・均衡方式への切り替えを検討する例もあるかもしれませんので、早めの準備と対応を心がけたいものです。
「秋を目途として、新型コロナウイルス感染症の雇用・経済への影響等を踏まえた、一般賃金の額等をお示しすることを予定しております」とされているため、まずは9月以降の行政からの情報を待ちたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)