コラム記事一覧へ

2020年8月20日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」34・新型コロナウイルス感染症と従業員への自粛要請

Q 新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、会社が従業員に対して不要不急の外出や帰省、旅行、会食などを控えるように指示(要請)しています。このような対応に問題はないですか。また、注意すべき点はありますか。

koiwa.png 40℃に迫る記録的な酷暑の中、マスクをして過ごす夏になりました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収まらない中、お盆休みの帰省の自粛を促したり、不要不急の外出や都道府県をまたいだ旅行、従業員同士の酒食などをしないように求めた会社も少なくありません。今春発令された新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の期間中はもちろん、それ以降においても会社が従業員にこのような要請を行うこと自体は基本的には問題なく、社会通念上も妥当な対応といえるでしょう。

 しかし、従業員が就業時間外にどう過ごすかは原則自由であるため、違法行為や会社の信用を毀損する行為などがないかぎり強制することは許されず、従業員の私的行為に過重に介入すれば事実上の指揮命令として業務性を帯びてしまうと考えられます。したがって、要請という形を超えて会社の指示に従わない従業員に対して懲戒処分を行うことは難しく、減給処分はもとより戒告や訓戒程度でも妥当性を欠くと判断される可能性が高いでしょう。

 また、都道府県をまたぐ移動を許可制にしたり、日常生活に必要な目的以外の外出を制限した上で報告を求めるケースなどもありますが、いずれも事実上会社が従業員の行動の自由に制約を課す趣旨であれば妥当とは認められず、届出を怠ったり虚偽の報告をする従業員に処分を課すことは認められないと考えられます。ただし、コロナウイルスに感染したにも関わらず医師や保健所の指示に従わず、医療機関や自宅において療養せずに虚偽の報告をして出勤したり、不要不急の外出を行ったような場合には、重大な服務規律違反として厳しい処分を行うことが可能でしょう。

 コロナウイルスの感染拡大防止のための自粛要請は会社の社会的な責任を果たすための措置の一環だといえますが、従業員の就業時間外の行為については個人の自主性の尊重とのバランス感覚が求められます。危機の時代を力を合わせて乗り越えるためにも、常日頃からの職場コミュニケーションと労使間の信頼の向上に努めていきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

PAGETOP