コラム記事一覧へ

2020年7月 9日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」28・社会保険の標準報酬月額の特例改定

Q 新型コロナウイルス感染症の影響による休業で報酬が下がった場合の社会保険の標準報酬月額改定の特例ができたと聞きました。具体的にはどのような内容でしょうか。

koiwa.png 新型コロナウイルス感染症は雇用に大きな影響を与えており、今でも休業を強いられる人がいますが、休業により報酬が下がった場合の社会保険料の負担が問題となることがあります。社会保険の仕組みでは、降給や休業で報酬が下がった場合は、随時改定(月額変更届)の手続きを取ることにより、報酬が下がってから4か月目に改定されることになります。ところが、今回のような休業の事態にあたっては、通常の随時改定の手続きを待っていたのでは実際の報酬と乖離した社会保険料の負担が3か月に渡って続くことになり、労働者の生活や事業所の経営に深刻な負担を与えることになります。

 そこで、特別に標準報酬月額の特例改定の制度が認められることになりました。コロナの影響による休業で報酬が下がり、一定の要件を満たした場合は、特例の月額変更届を提出することにより、その翌月から保険料が改定されることになります。具体的に対象となるのは、以下の場合となります。

(1)新型コロナウイルス感染症の影響による休業(時間単位を含む)で、令和2年4月~7月の報酬が著しく低下
(2)著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1か月分)が2等級以上、下がった
(3)改正内容に被保険者本人が書面で同意している

 この特例は通常の随時改定とは異なり、固定的賃金の変動の有無に関わりなく対象となり、休業した日に報酬が支払われていなくても基礎日数としてカウントします。したがって、日給や時給の単価に変更がなく、休業命令や自宅待機指示などによって休業したような例も当然ながら特例の対象となります。

 おりしも定時決定(算定基礎届)の期限を7月10日に控えていますが、7月、8月に特例を適用した場合は、定時決定の対象外となります。このため、休業が終わってから3カ月間の報酬の平均が2等級以上上昇したときは、必ず随時改定(月額変更届)の手続きを取る必要があるため、注意しましょう。

 なお、この特例はあくまで例外的な扱いですので、一度届出を行うと同じ被保険者について複数回届出を行なったり、内容を変更したりすることができないため、この点も認識しておきたいところです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

PAGETOP