新型肺炎の広がりとともに、拡大防止に懸命の努力を続ける官民の関係者をよそに、やはり出た。「中国人は来日させるな」「武漢からの帰国者は離島に隔離しろ」といったネット掲載のヘイト発言、差別発言の横行だ。匿名をいいことに、よくそこまで言えるものだ。と思っていたら、自民党国会議員からもそうした発言が出たという。事実とすれば、あきれるばかりだ。
もっとも、これにはメディアにも責任の一端がある。いわゆる「過剰報道」だ。3番目のチャーター機で帰国した邦人の一部が筆者の地元の施設に隔離された際、テレビ局のカメラが入り口に陣取り、周辺はにわかに緊張感に包まれた。そこまで撮影する必要があるのだろうか。まるで、刑事事件の容疑者と同じ扱いに思える。何の責任もない帰国者にすれば、迷惑の極みではないだろうか。
さらに、感染予防と称する方法がテレビで流れると、マスクや消毒液が飛ぶように売れ、あちこちで品切れが続出している=写真。メディアが消費者の不安心理をあおり、買いだめに走る消費者の映像を流す。そこで不安心理が拡大して、買いだめも拡大……。まるでメディアによる“不安ウイルス”の拡散ではないか。
どこか、半世紀前の石油ショック時のトイレットペーパー騒動を思い起こさせる。メディアが流した石油製品の欠乏報道が曲解され、トイレットペーパーが無くなるとの風評に、国民は踊らされた。当時、社会人になったばかりの私は、なぜそこまで騒ぐのか、さっぱりわからなかった。あの教訓はどこへ行ったのか。
そして、現代。本当にマスクが不足しているなら、布製マスクをアルコール消毒して再利用すればいい。消毒液が1本あれば、1カ月やそこらは持つはず。買いだめまでする必要はあるのだろうか。そもそも、専門家によればマスクの効果はあまりなく、手洗いの方がよほど重要という。消費者も、こうした時こそメディア・リテラシーが問われる。(俊)