「無限定」から「ジョブ型」へ
編者・鶴 光太郎
日本評論社、定価4600円+税
多くの日本企業にとって「働き方改革」は経営上の必須項目になっているが、実態は本気で改革を進めている企業と「やっている感」に自己満足している企業に分かれているようだ。とりわけ、働き方改革が日本型雇用システムの問題と密接につながっており、そこまで見据えて改革を進めようとしている企業はごく一握りに過ぎない。
本書は、そうした日本型雇用システムの分析とそれに基づく問題をえぐり出し、どうやって克服すべきかという提言を盛り込んだ“正論書”である。第1部「総論」から第6部「教育システム」の6部構成で、鶴光太郎慶大大学院教授を中心に日本型雇用システムの歴史、転勤・異動・定年後雇用、賃金プロファイル、労働時間、大学教育と採用システムなど、主要分野について19人の専門家が分担執筆している。
中心テーマは、問題の根底にある「無限定正社員システム」であり、そこからの脱却と「ジョブ型正社員」の拡大にある。本書はここに課題克服のカギがあるとして提言しているが、同時に、無限定システムが戦後の長期にわたって労使が積み上げてきた「労働慣行」とあって、法改正のみを通じて実現できるものではなく、その分、改革が容易に進まない要因となっていることも指摘している。
しかし、無限定システムが行き詰まりをみせており、新たなシステムを構築しない限り、日本企業の生産性が向上しないこともほぼ明らかになっている。本書は、労働分野にはびこる“俗論”を徹底的に排し、調査・統計を駆使したエビデンスに基づく論理を展開している。それだけに、決して読みやすい内容ではないが、一貫した冷静な分析と提言は強い説得力を持って読む者に迫ってくる。(俊)