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2019年12月10日

【ブック&コラム】「パワハラ防止」指針、どうして必要か?

 企業にパワーハラスメントの防止を義務付ける法律が、来年6月に施行される。50歳を目前にした筆者あたりの年代が“加害者”になりやすいと感じるだけに、気を付けたいところだ。どこまでがパワハラに該当するのか、しないのかを示した厚生労働省策定の指針案に目を通したところ、実際の職場において線引きが難しい、または悩ましいと感じるものも散見された。背景や経緯、状況など多面的な要素が想定されるだけに、熱心な指導と“行き過ぎ”の境界線を明確な文言に落とし込むには限界があったのだろう。

c191210.JPG 「パワハラ防止」を法制化することにある種の危険性を抱く人も少なくない。しかし、厚労省が毎年公表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、労働局などに寄せられる相談として「いじめ・嫌がらせ」が年々急増しているのが実態だ。この中には指針案が示されたパワハラ事例に該当するケースが多くを占めていると推測され、被害者の自殺や精神疾患など深刻な事態を引き起こす要因になっている。「俺たちの時代は…」などと言い放ちたい気持ちもわかるが、時代とともに常識は変わり、今や無視できない状況なのだ。

 防止法では、パワハラを(1)優越的な関係を背景にした(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより(3)労働者の就業環境が害されるもの、の3要件を満たした場合と定義。この定義に基づき、身体的攻撃、精神的攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の六つの類型に分けて事例を挙げている。この内容で十分なのか、不十分なのかの議論は、労使の間でまだ最終決着がついていない。

 筆者自身の四半世紀の職業人生を見つめ返すと、身の回りの至るところに「パワハラ」が存在した。駆け出しのころは、外見上はギリギリ隠しきれたが、心に支障を来たしたこともあったと記憶している。現在も、常軌を逸した信じられない職場があると聞く。学校における「いじめ問題」を考える際にも思うのだが、まずは事案が職場だとか学校だとかに関わらず、傷害事件である場合は論外とすべきだ。刑事事件の範疇を「いじめ」「パワハラ」で収めてはならず、そうした次元とは別のステージでハラスメント全体について考え、試行錯誤の中で新しい「常識」が醸成され、浸透していくことに期待したい。(司)

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