40名の起業が示唆するキャリア観
著者・溝口 敦
文藝春秋、定価850円+税
脱サラして起業した老若男女の物語を淡々と追ったドキュメント集。「起業の夢を実現する」「故郷で第二の人生を」「職人として生きる」「趣味を活かす」「人の役に立ちたい」の5章に区切り、各8事例、計40名の半生をレポートしている。
「あえて成功ノウハウを抽出する必要はない」と著者が言い添える通り、“成功原則なんてない”というのが時代の特徴なのかもしれない。少なくとも本書の事例では、準備万端、事業計画をしっかり練って、というストーリーは少数派だ。心理的に不活性な状態や不運の続くプレ体験があって、しかしそのモラトリアム期間に何かを蓄積していて、ふとした縁を契機に潜在能力が開花し、出たとこ勝負を重ねて今日まで乗り切っているという軌跡が典型的なパターン。場当たりに見えて、実は決断力や柔軟な対応力は相当に鍛えられているともいえる。「設備も人材も泥縄式対応を基本とする」と社内冊子に明記した会社すらある。
不確定要素が大きい環境では、構えすぎないキャリアが結果的に成功する事実を素直に受け止めたい。
(久島豊樹/HRM Magazine より)