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2019年8月 6日

【ブック&コラム】『歴史戦と思想戦~歴史問題の読み解き方』

「自虐史観」批判を真っ向批判

c190806.jpg著者・山崎 雅弘
集英社新書、定価920円+税

 

 本書の帯にもあるように、近年、「従軍慰安婦はいなかった」「南京虐殺はなかった」など、近現代史における従来の歴史認識を真っ向から否定する右派系の書物が幅を利かせている。折からの日韓関係の悪化により、この勢力がさらに増長して、「韓国とは絶交を」「自虐史観からの脱却を」式の声が高まっている。

 本書は、こうした流れに歯止めを掛ける労作で、「歴史戦とは何か」から「時代遅れの武器で戦う歴史戦の戦士たち」までの5章構成。東南アジアで旧日本軍が「善政」を行ったとする井上和彦氏のルポの欺瞞を暴いたり、戦前と戦後の「日本」を区別しないケント・ギルバート氏の粗雑な論理を論破するなど、丁寧な検証と論理立てを通して戦前回帰の危険性をあぶり出している。

 近年、「大日本帝国」肯定論が勢いを増している背景には、侵略戦争への反省が中途半端なまま「戦後の繁栄」を謳歌した日本の“驕り”を、中国や韓国など直接の被害国が敏感に感じ取り、「反日」色を強めていることも一因としてありそうだ。しかし、「反省」を「自虐」にスリ替え、「やられたら、やり返せ」というだけの単純な論理は、威勢こそいいが、何の解決にもならないことは明らか。

 著者は同時に、過去の歴史事実を平気で否定する勢力に対して、歴史学者が反論、批判しようとしない“象牙の塔”ぶりにも不信の目を向ける。戦後74年にもなって、日本と中韓のミゾがなぜ埋まらないのか、じっくり考えるに格好の良書だ。(俊)

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