コラム記事一覧へ

2018年11月20日

【書評&時事コラム】『生産性とは何か~日本経済の活力を問いなおす』

「生産性」の正しい理解を“講義”

c181120.jpg著者・宮川 努
ちくま新書、定価800円+税

 

 政府が旗を振る「働き方改革」の一環として、「生産性の向上」も大きな焦点になっている。しかし、この「生産性」とは何だろう。同じ時間を働いて仕事を終える人は「生産性が高く」、終わらずに残業する人は「生産性が低い」のだろうか。「生産性」とはそんな意味だけなのだろうか。

 本書は「生産性」を長年研究してきた経済学者による、生産性の講義録のような内容。「序章 生産性はなぜ注目されるようになったのか」から「第六章 日本経済が長期停滞を脱するには」までの7部構成。「生産性の概念と日本経済」をはじめ、国内外の学者の論文や学説、データ解析などを紹介しながら厳密な分析を進め、イメージが先行しがちな「生産性」の正しい理解を促す。

 さらに、日本経済全体の生産性向上に向けて、企業と政府がそれぞれどのような役割を果たすべきかも提言。活発なイノベーション経済を実現するため、政府レベルで実施すべき重要な政策として、労働市場の規制緩和を挙げる。その意味で、遅きに失したとはいえ、政府の「働き方改革」の方向性は評価している。

 今後、生産性を劇的に向上させるヒントに、著者はスポーツと観光を挙げている。新興国に次々と追い抜かれている経済とは対照的に、世界進出の著しいスポーツと外国人観光客を吸い寄せる観光業の隆盛は、日本の未来にとって大きなヒントになっているからだという。「生産性」をじっくり考えたい人にはお勧めの1冊。(俊)

PAGETOP