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2017年12月19日

【書評&時事コラム】『夫の後始末』

夫との最期を淡々と描く

c171219.jpg著者・曽野 綾子
講談社、定価926円+税

 

 夫の作家、三浦朱門氏は2017年2月3日、間質性肺炎のため91歳で死去した。著者は夫の症状が出始めた15年春から亡くなるまで、自宅で「老老介護」に当たったが、本書はその間の2人のやり取り、介護の情景、著者の介護観、人生観などを週刊誌に連載したのをまとめたもの。

 「変わりゆく夫を引き受ける」と「看取りと見送りの日々」に分かれ、前半は介護奮戦記。三浦氏には認知症の症状もあり、著者はほぼ付きっきりの介護生活に明け暮れた様子だが、こうした生活に付きものの介護側の悲惨さ、涙と笑いなどはまったくといっていいほど出て来ない。同様に、後半の三浦氏の最期の場面に至っても、それは変わらない。

 著者の小説もそうだが、人間の喜怒哀楽といったものに対して、直接的に表現することはほとんどなく、会話や行動などを描くことで感情が伝わってくる。それもあって、文章はどうしても観念的な硬い表現になりがちだが、「そこが魅力」というファンも多い。

 2人とも敬虔なカトリック信者であり、生活観や人生観は非常に禁欲的であり、それは夫の死後も変わらず、客観的な記述にあふれている。それが逆に、夫婦の愛を鮮烈に描き出しており、読み終えた後に深い余韻を引きずる1冊だ。(俊)

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