埼玉県東松山市にある「原爆の図丸木美術館」=写真=が収蔵作品の保存に向けて基金を設立し、現在の建物の隣に温度や湿度を管理する新館の建設に乗り出したという。同美術館は名前の通り、故丸木位里・俊夫妻が広島の惨禍を描いた大作「原爆の図」14作品を常設展示している。しかし、1967年の開館から50年が過ぎ、作品の傷みが激しくなってきたため、関係者が“永久保存”に乗り出した。
「原爆の図」は、不思議な絵だ。人間の姿かたちを失ったような被爆者たちが幽霊のようにさまよう光景が、大画面いっぱいに描かれている。画家の描いた“作品”だから事実そのものではないが、事実を伝える写真、映像、新聞記事、被爆証言集といった記録より、直截的に訴えて来るものがある。
私もこれまで数度、鑑賞に訪れたが、作品群に囲まれているうちに、被爆者の声が聞こえた気分になり、怖くなって館外に走り出たことがあった。単に原爆の悲惨さを訴えるだけでなく、人間の想像力をかきたてる芸術作品としての迫力を感じたからではないかと思う。
美術館にはそれぞれに存在すべき理由があるのだろうが、丸木美術館は日本や世界にとって“永久保存”すべき美術館の一つではないか。国連がようやく採択した核兵器禁止条約を無視し、チキンレースよろしく、核開発にウツツを抜かす国の指導者たちに見てほしい。核廃絶をアピールする発信基地は広島、長崎だけではないことが、よくわかるはずだ。(俊)