悪筆ライターが美文字に挑戦
著者・新保 信長
文芸春秋、定価1300円+税
久しぶりに、面白いルポを読んだ。題名通り、字のヘタな編集者兼ライターが、美文字の習得をめざして“奮戦”するお話。「なぜ私の字はこんなに汚いのか?」の疑問から始まり、きれいな字を書く努力、著者と同類の悪筆ライターへの取材、「字は人を表す」という俗説の検証などを経て、最後は「うまい字」より「味のある字」をめざそうという平凡な結論に達した(ようだ)。
本人の子供時代の作文をはじめ、友人ライターや編集者の悪筆原稿、送り状などもふんだんに載せていて、「本当にヘタだなあ」とおかしいこと、このうえない。阪神タイガースのファンらしく、「六甲おろし」を取材相手に書いてもらうアイデアもいい。それをみると、美文字はもちろん問題ないが、ヘタ文字でも、案外と「味のある」場合もあることが納得できる。
評者を含め、手書きが当然だった時代、字の上手ヘタは“死活問題”だった。学校でも習字の時間があり、冬休みの宿題は「初日の出」などの書き初めがもっぱら。ヘタ組の評者はそれがもう嫌いで、ロクな練習もしないまま大人になったツケを何度も払わされたものだ。したがって、ワープロ、パソコンの登場は「干天の慈雨」「神様からの贈り物」です。
でも、なんですね。字はきれいであることに越したことはないが、たとえ悪筆であっても、あまり落ち込むことはないよね。著者のように、それを逆手に取って本を1冊書く、したたかな人もいるんだから。悪筆、万歳!もうヤケクソ。(俊)