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2017年3月28日

【書評&時事コラム】『武器としての人口減社会』

OECD統計から見える日本の将来像

c170328.png著者・村上 由美子
光文社新書、定価740円+税

 

 いまいち盛り上りに欠ける景気やギスギスした社会状況など、日本は出口の見えない、ある種の閉塞感に覆われている。そんな時代に、本書は社会全体から個人生活に至るまで、日本の向かうべき方向性を示唆する1冊だ。

 タイトルからもわかるように、著者は日本の人口減と超高齢社会を悲観的にとらえる“主流派”と異なり、人口減は日本にとって大きなチャンスとみる。その根拠となっているのが、著者の勤務先のOECD(経済協力開発機構)から送られてくる膨大な国際比較の統計資料。本書は、その統計を縦横に駆使して、日本の「相対的優位性」を語っている。

 例えば、世界的に急速に広がるAI(人工知能)について、欧米では「人間の雇用を奪う」と危惧する意見が多いのに対して、日本は労働力不足を補う有力なツールになる。また、日本の教育水準、イノベーション力は世界トップ級であり、今の社会制度がそれを生かせないために、「眠れる人財大国」となっている事実を丹念に掘り下げる。

 1月3日の本欄で紹介した『人口と日本経済』(吉川洋氏)と同様に、「人口減→日本衰退」と短絡的に考えるのが誤りであることがよくわかる。文章は明快で、著者の筆力の高さがうかがわれる。OECD統計はマスコミなどでもよく引用されるが、場当たり的で舌足らずな引用が多く、慣れている評者も驚く統計が幾つかあった。これも収穫。(俊)

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