あるテレビのアナウンサーが「高齢ドライバーの事故が急増している中で…」という枕詞を使って、高齢者の交通事故を報道していた。おそらく、コンビニ店舗を壊した、登校中の学童の列に突っ込んだ、高速道路を逆走したといった重大事故が相次いでいることから、「急増」しているように見えたのかもしれない。実際には「急増」なんかしていない。
警察庁の統計に当たればはっきりわかる。75歳以上のドライバーが起こす死亡事故は2015年までの過去10年間は400~500件の横ばいで、増えているわけではない。ただ、全体の死亡事故が減っているので、相対的に高齢者の死亡事故「比率」が上昇しているのだ。
なぜ、高齢者の死亡事故は減らないのか。原因も単純で、高齢ドライバーが増えているからだ。75歳以上の免許保有者は05年当時の約236万人から、15年には約478万人と2倍以上になった。数が増えれば、事故もそれに比例して増えるのは不思議なことではない。これに対して、免許保有者10万人当たりの死亡事故件数というのがあって、高齢ドライバーの場合は10年間で19.3件から9.6件に半減している。高齢者の事故が「急増」しているという言い方は、今のところ誤りだ。
しかし、団塊の世代の高齢化によって、今後も高齢ドライバーは増え続ける。3月から認知機能の検査強化などを盛り込んだ改正道交法が施行されるが、おそらくそれだけでは不十分だ。免許更新を1年ごとにする、バスなどの利用が可能なら免許を返納してもらうといった思い切った対策が必要になるだろう。同時に、自動車メーカーには自動運転車の開発を急いでいただきたい。こうした対策を徹底すれば、高齢ドライバーの事故は間違いなく「急減」するはずだ。高齢ドライバー“予備軍”の1人として切に思う。 (俊)