新たな視点で「家族」再構築の必要性を問う
著者・中島 隆信
祥伝社新書、定価820円+税
著者は、自称「経済学とは縁遠く見える対象を、経済学の視点から一般向けに論じた」応用経済学者である。「家族」については、すでに様々な論者が様々な視点で論じているが、本書は「経済学をはじめ、社会学、法学、心理学などの多分野の知見を総合して家族の問題を考える」のが目的である。
具体的には家族の出発点である結婚について「なぜ結婚するのか」(第1章)と問い、「家族のガバナンス」(第2章)の必要性を説き、「夫婦関係」(第3章)、「親子関係」(第4章)、「祖父母と孫、そして親との三角関係」(第5章)の課題について論じた。そして、本土とは異なる家族制度を持っている「沖縄の大家族」を取り上げ、「沖縄の家族問題から見えてくるもの」(第6章)を補論的に述べ、最後に「法律は家族を守っているか」(第7章)で締めくくっている。
著者は、「家族は愛情と血縁で固く結ばれている」という思い込みにこそ多くの危険が潜んでいると言い、日本の殺人事件の半数以上が親族がらみであり、「日本で最も治安の悪い場所は家庭内だ」と指摘する。その具体的解決策が提示されているわけではないが、「沖縄の大家族」の事例をあえて取り上げているところなどを考えると、著者の意図はおのずと明らかであるように思える。
近年の少子高齢化の中で「家族の解体」が急速に進んでいることを思えば、「相互扶助共同体」としての家族の再構築が急務だと思われる。その際、「家族とは何か」という本質論を考える上で、上記各章は基本的論点であり、著者の意見に対する賛否はともかく、家族問題を考える上での必読書であることは間違いない。 (酒)