「クラシック」音楽の枠を超えたエッセイ集
著者・池辺 晋一郎
中央公論新社、定価1800円+税
本書は、クラシック音楽の著名な作曲家によるエッセイ集。2000年1月~15年7月まで、読売新聞夕刊に寄稿していたエッセイ186本から116本を選んだという。
読み終えて感じることは、著者を「クラシック作曲家」と一言で片づけるのは到底無理なこと。有名な「耳なし芳一」「鹿鳴館」などのオペラをはじめ、交響曲、合唱曲も創作する一方、NHK大河ドラマや黒澤明監督の映画音楽も手掛けたマルチタレントの持ち主だ。
さらには、金沢や横浜などでの音楽祭のプロデュースを通じて、地方都市における音楽レベルを向上させ、ベトナムなど東南アジア諸国での日本オペラ公演を成功させた体験談など、内容は通常のクラシック演奏の評論にとどまらない。地方都市での音楽祭などには充実したものも多く、テレビなどのメディアも中央の著名演奏だけでなく、こうした裾野の広がりぶりをもっと紹介すべきではないか。
音楽というものは、大ホールに出掛けて有名演奏家による人気曲を聴くだけでなく、国家・地域の伝統に根差した文化の発掘や編曲などを通じて、日常生活の一部になっているのが本来の姿ではないか。本書からは、そんな思いが伝わってくる。 (のり)