戦後70年の資本主義の「限界と醜態」を指摘
著者・佐伯 啓思
新潮新書、定価740円+税
著者は団塊の世代を代表する保守系の社会思想家。本書は月刊誌『新潮45』に『反・幸福論』として掲載されたもののうち、2014年4月号~15年6月号の分を新書化した。
「その時々の時事的なテーマを論じつつ、その背景にある思想的な問題を明らかにすると言う方針」で書かれているため、第6章までは、「脱原発の意味」、「朝日新聞」、「失われた故郷」、「ニヒリズム」、「グローバル競争と成長追求」、「福沢諭吉から考える『独立と文明』」「その時々の時事的なテーマ」を取り上げており、7章以降になってようやく、「資本主義の限界と醜態」を語る。
筆者によれば、「戦後世界経済が成長できたのは、せいぜい50年から80年にかけての30年間にすぎず」、「90年代以降世界の先進国経済は、もはや成長できなくなっている」という。無限の拡大・成長が資本主義原理の根幹であるとすれば、これは明らかに資本主義の限界を示す事態だという。
さらに著者は言う。「『個人が大事』だとか、『自己実現が重要』といった近代社会の価値が、結局のところ、もっぱら『私的な』消費の効率性の次元に回収されてしまい」、「人は、社会的なつながりを失い、『超自我』を形成することができなくなってしまう」。
そして、「今日の資本主義のフロンティアがこのような、人々の内面、つまり『衝動』へ働きかけるものだとすれば、本当に、それは『人間破壊』と言うほかない」と結論付ける。
しかし、「ではどうすればいいか」についてはなんの指針も示していないが、上記の基本方針はしっかり守っており、現代の問題を考えるにあたり、大いなる知的刺激を与えてくれることは間違いない。 (酒)