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2015年10月24日

【この1冊】『どうなる!どうする?医療事故調査制度』

医療事故調の課題が浮かび上がる

c151024.jpg医療情報の公開・開示を求める市民の会編
さいろ社、定価1100円+税

 

 さまざまな紆余曲折を経て、10月から政府の医療事故調査制度がようやくスタートした。医療機関で「予期せぬ死亡事故」などが起きた場合、院内調査をして第三者機関に届け出ると同時に、遺族に説明することで、原因究明と再発防止を講じることを目的とする制度だが、中身には課題も多い。

 本書は、主に医療事故の被害者家族、弁護士、メディア関係者らが、制度発足に至るまでの経緯や制度の必要性、今後、改善すべき課題について手分けして書いたもの。「求められる医療事故調査制度とは」「医療事故被害者は何を求めてきたのか」「病院は事故にどのように対処すべきか」など七つのテーマに分けている。

 日本にはこれまでこうした制度がなく、被害者や家族は医療機関と直接交渉するか、それが不調な場合は刑事告訴・民事訴訟という司法の場に持ち込むしかなかった。しかし、情報量は圧倒的に医療機関側が握っているうえ、一般市民にとって裁判は時間的にも金銭的にも大きな負担となる。そのため、泣き寝入りするケースも後を絶たなかった。

 しかし、1999年から都立広尾病院、横浜市立医大病院、杏林大病院、東京女子医大病院、福島県立大野病院などの大病院で信じがたい死亡事故が相次ぎ、真相解明に捜査機関が入ることの是非が問われる事態にもなったことから、医療機関側にも制度の必要性が認識されるようになり、事故調の発足につながった。

 本書はこうしたいきさつと同時に、医療機関側を告発するだけでなく、遺族と病院の“協働”によって再発防止に努めている事例紹介もあり、前向き、建設的な1冊となっている。被害者感情だけに支配されている患者・家族、「モンスター・ペイシェント」に戦々恐々とするばかりの医療機関関係者らにとっては格好の必読書だ。 (のり)

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