「終身雇用」で形成されたサラリーマンの心情
著者・清武 英利
講談社+α文庫、定価900円+税
今から20年近く前の1997年11月、北海道拓殖銀行と山一証券が相次ぎ倒産し、バブル崩壊後の長期低迷にあえいでいた日本経済は「金融システム危機」という窒息死寸前まで追い込まれた。山一は「自主廃業」という最も厳しい選択を余儀なくされ、会社は消滅、社員は散り散りとなった。
本書は、そうした中にあって、会社の清算業務と真相究明にあたった社内調査委員会のメンバーら、普段なら日の当たらない「場末」にいた12人にスポットを当てたノンフィクション。登場人物は原則実名で、自主廃業に至る97~98年ごろの「後軍(しんがり)」の活動ぶりが生き生きと描かれている。
2年前に出版されて話題を集めたハードカバーの文庫本化だが、改めて読み直すと「これだけ真面目で芯の強い社員たちのいた会社が、なぜ潰れたのか」と率直な印象を強く受ける。「経営者がダメだったから」と言えばそれまでだが、ダメ経営者に成り代わって真相追及までした社員たちの姿には、「会社=人生」という戦後日本の終身雇用制がもたらしたサラリーマンの精神構造が色濃く反映されている。
それは、2008年のリーマン・ショックで失職したリーマン・ブラザーズの社員が、段ボール箱を抱えながら「クビになっちゃった」と苦笑いしながら退社して行った風景とまったく違う。職務分担の明確な欧米企業の社員にすれば、残った山一社員の行動は理解できないであろう。逆に言えば、日本人の琴線に触れる部分であり、「滅びの美学」にも通じる。テレビドラマにもなって、かなり“神話化”が進んではいるが。 (のり)