「経済的自由主義」に対する批判者の思想を解説
著者・若森 みどり
平凡社新書、定価880円+税
著者は、19世紀末から20世紀前半の「破局の時代」を生きたハンガリー生まれの経済学者で「知の巨人」」と呼ばれるカール・ポランニー(1886~1964)の研究家で、既に幾つかの関連著作もある。
ポランニーは文化人類学の知見を基に、社会の統合システムとして「再分配」「交換」と並んで、「互酬(贈与と返礼)」の重要性を主張して注目されているが、本書では資本主義の発生段階からの「経済的自由主義に対する批判者」としての側面に焦点を当て、その時代背景と多様な思想の発展過程を解説している。
著者によると、ポランニーには実に多様な「顔」があった。ハンガリー時代(1886~1919)には、弁護士や封建的支配体制に対抗する民主化運動の担い手として、オーストリア時代(19~33)には社会主義者やジャーナリストとして、英国時代(33~47)には、労働者教育協会の教師やキリスト教左派の理論家として生きた。そして、北米時代(47~64)には経済史家や経済人類学者として、それぞれの移住先でその時代の課題に立ち向かった。2度の世界大戦を経験するという「破局の時代」に3度の海外移住を強いられたことになる、
著者が注目するのは、各時代を通じて一貫していた、すべての市場への介入を排除しようとする「経済的自由主義」に対する批判である。なぜなら、彼の批判は80年代以降、世界中で主張されるようになった「新自由主義」に対する批判にそっくりそのままあてはまるからである。本書の副題が「ポスト新自由主義時代の思想」となっているゆえんである。
ポランニーが最近、見直されている理由は、この点に加え、資本主義の発生期から自由主義的市場経済の問題点を指摘し、それが現在の格差問題の批判にも妥当すること。ケインズとは異なる視点から社会民主主義的な福祉政策を主張して、北欧諸国の「福祉国家論」の理論的バックボーンとなっていること。ポスト資本主義を考える時、彼の「互酬制」論を無視できないことなどである。ポランニーの全体像を知るには適切な入門書だ。 (酒)