30年の研究成果をまとめた高齢者問題の分析と提言
著者・河合 克義
光文社新書、定価760円+税
著者は30年以上も前から高齢者の「貧困と社会的孤立」の研究に取り組み、NHKの特別番組「無縁社会」「老人漂流社会」に協力・出演したこともある、この分野の代表的研究者である。
著者は長期間の調査を踏まえて、高齢者、特に一人暮らしの高齢者問題を分析していく。「貧困と孤立は、最も弱い層を襲う(第1章)」「一人暮らし高齢者はどの地域に多いか(第2章)」といった調査結果を基に分析し、よりリアルな生活実態を示すため、3人の高齢者の日記を紹介。ほとんど食事のことしか書いていない1週間分の「日記は語る(第3章)」を読み解いたうえで、「5つの生活類型と格差(第4章)」にまとめている。
その結論は「2000年以降、孤立死・餓死がそれ以前よりも増加している」だが、「介護保険制度の導入によって、それまでの高齢者行政サービスは、大部分民間業者に委ねる形で切り捨てられた」ことを理由に挙げる。なぜなら、「介護保険制度が高齢者問題全体をカバーしているわけではなく、介護保険の利用率は1割半であり、残りの8割半の高齢者の中で起こっている生活問題に目を向ける必要があるのではないか」というわけだ。
従って、提言も「福祉サービスの再構築を」ということになり、孤立問題の解決策としては「地域ネットワーの再構築」を挙げ、著者自身もコーディネーター役を担っている「港区のチャレンジコミュニティ大学」の事例など紹介している。
それにしても、誰よりもこの問題の難しさを知っている著者が「先進国の中で、日本ほど老人に冷たい国はない、とつくづく思う。わが国で高齢者の貧困と孤立問題がこれほど深刻なのは、個人責任の範疇を超えた社会的背景を持つ」と嘆いているのは胸に響く。同時に、「不安定な仕事をしてきた人の高齢期の貧困と社会的孤立、……そうした人を無視した政策の展開が、孤立死・餓死を生み出してきた。しかし、それは過去のことではない」とも述べ、日本の最優先課題であることも強調している。 (酒)