過労死を生む企業風土を徹底検証
著者・中澤 誠
ちくま新書、定価820円+税
長時間労働の弊害が叫ばれ、過労死防止法まで制定されたのに、ちっとも減らない過労死。本書は理論ではなく、事実関係の中から、その根本的な原因に迫っている。「高度プロェッショナル制度」導入への疑問から始まり、残業規制の役割を果たすはずの「36(さぶろく)協定」の問題点、外食チェーンなど過労死訴訟の経過を克明に追い、法制度と労働現場の深いギャップに切り込んだ労作。
日本の労働時間は労働基準法によって「1日8時間、週40時間」と規定されているが、同法36条によって骨抜きにされていることはよく知られる。著者らは大企業を中心にしたアンケート調査を実施。その結果、残業時間の上限を「過労死ライン」の月80時間をはるかに上回る時間に設定している企業が多数だったことがわかった。
実際にはそこまで残業させることはないにしても、著者はそうした設定自体に経営者側の身勝手を鋭く嗅ぎ取る。しかも、その陰には「労働時間の絶対的上限規制を」と叫ぶ労働組合さえ、本気でそう思っているかどうか疑わしい事情が透けて見える。極端に言えば、実際に過労被害に遭った人以外は、問題の深刻さからあえて目をそらしているのではないか。本書からは、そうした印象を強く受ける。
ジャーナリストらしい「足で書いた」一冊だが、日本の労働生産性がなぜ低いのか、なぜ労組が凋落したのかなど、重要なポイントにはあまり触れていない。さらに、著者は裁量労働制の下で仕事をしている新聞記者のはずだが、この制度に対する評価は否定的。記者の仕事の仕方に対する自己評価を聞いてみたいものだ。 (のり)