「教科書」「慰安婦」などを包括的・構造的に解明
著者・木村 幹
ミネルヴァ書房、定価2800円+税
8月8日の本欄で取り上げた『日本占領史』(福永文夫著)と並んで、2015年度の読売・吉野作造賞を受賞した力作。
著者はすでに、アジア太平洋賞特別賞やサントリー学術賞を受賞している気鋭の韓国研究者。さすがに数多い類書と異なり、日韓関係を包括的・構造的に分析しながら、最近の日韓関係を歴史認識問題に絞って分析している。
著者によれば、今の日韓間で問題になっているのは、「過去の歴史的事実」そのものではなく、現代に生きる人々が過去の歴史をどう認識するかという「歴史認識」の問題だと言う。
例えば、「慰安婦」問題は、日本がバブル経済に沸いた1980年代、大挙して「キーセン観光」にやって来る日本人を見て、「金の力で自国の女性が買われている」と感じた韓国人たちが、「戦争中は軍の力で自国の女性たちが力づくで売春させられた」ことを「再発見」してしまった、と説く。
一部の嫌韓派やナショナリストの言説とは異なり、著者の視点はあくまでも公平であり、韓国側の日本に対する経済的劣等感や競争意識などを分析しつつも、日本側の問題点を指摘することも忘れない。今まさに、第2次朝鮮戦争が勃発するかもしれない状況を勘案すると、南北関係の分析の弱さに不満も残るが、隣国である韓国との関係を考えるには、イデオロギーにとらわれずに書かれている最良の1冊。 (酒)