「戦後体制」の出発点を包括的、多面的に分析
著者・福永 文夫
中公新書、定価900円+税
2015年度の読売・吉野作造賞受賞作である。著者は日本の政治外交史の専門家で、「戦後体制」の出発点である占領時代を包括的、多面的に分析している。
著者は「敗戦から70年・・・いま、日本国憲法を含む様々な民主化改革の評価が揺れ、敗戦直後本土と切り離され、アメリカの支配が続いた沖縄占領の評価も定まっていない。さらには、日本国憲法と日米安全保障条約によって創られた『戦後』を総体として、占領を位置づける作業も終わっていない」という現状認識に立ち、本書を30年に及ぶ「占領時代研究の総括」としている。
著者が特に強調しているのは、占領時代をテーマごとに断片的・一面的にみるのではなく、包括的・多面的にみること。さらに、「マッカーサー元帥が単独で、日本を改革し、経済を再建した」と思い込んでいる人達が、いまだに日米に多くいることに対して、「日本人の貢献・関与」、「東京のGHQと本国・ワシントンの確執」、「占領時代の最初から、本土のGHQとは切り離されて占領されていた沖縄の視点」が強調されている点はきわめて興味深い。
特に、占領政策が当初の非軍事化・民主化の推進から、冷戦の深まりの中で日本を「反共親米」にすべく、経済復興政策に転換されるプロセスや、朝鮮戦争の中で締結されたサンフランシスコ講和条約とセットで締結された日米安保条約の推進などに、日本側の誰がどのように関与したかなどを知ると、現在まで続く日本の「対米従属政策」がどのように形成されてきたかもわかる。
戦後の教育改革や、沖縄を除く奄美大島・宮古島などの離島に対する占領政策については一切触れられていないといった欠点もあるが、これだけ包括的、多面的な占領時代の分析はなかっただけに、日本の「戦後史」を考えるための必読書であることは間違いない。 (酒)