全国に広がる地方寺院の危機の実態
著者・鵜飼 秀徳
日経BP社、定価1600円+税
日本創成会議がこのほど発表した「消滅可能性都市」の試算は大きな波紋を呼んだ。2040年には全国の半数近い自治体が“消滅”するという衝撃的な内容だったからだが、それを仏教寺院の側から見たのが本書。というのも、寺院の存続問題は高齢化、過疎化、核家族化、都市への人口流出など、地方で進行している諸問題と密接に関連しているからだ。
著者は長崎県・宇久島、島根県・石見、福島県・会津坂下など、過疎地域にある代表的な寺を訪ねて克明にリポート。「人口減少=檀家減少」に直面している寺が存続に向けてどんな努力をしているか、取材を重ねる。同時に、明治期の廃仏毀釈や戦後の農地解放が寺院経営に大きな影響を与え、現代は人口減という“第三の波”にさらされている歴史的な経緯も解説している。
とりわけ、現代人の生活スタイルの変化に伴って先祖観や家族観も大きく変わり、それが葬儀や墓の管理などにも影響を及ぼしている実情紹介が興味深い。同様な課題を抱えている評者も大いに考えさせられ、いやでも生と死について思いをめぐらすことになった。
観光客でにぎわう有名寺院や仏像ブーム、人生論を兼ねた仏教教義の解説など、書店に並ぶ数多くの関連書籍は、多くの寺社が置かれているこうした現実をほとんど伝えていない。それだけに、本書のルポは貴重であり、「寺が消えることは、自分につながる“過去”を失うことでもある」という著者の指摘が身に染みる。 (のり)