中高年派遣社員の「奴隷労働」の実態を告発
著者・中沢 彰吾
講談社現代新書、定価800円+税
著者は元毎日放送のアナウンサー兼記者だったノンフィクション・ライター。
自らの体験を基に、「奴隷労働」を強いられている中高年派遣労働者の実態を報告している。その具体的内容は、各章の表題に明確に示されている。「人材派遣と言う名の『人間キャッチボール』」(第1章)、「人材派遣が生んだ奴隷労働の現場」(第2章)、「人材派遣の危険な落とし穴」(第3章)、「悪質な人材派遣会社を一掃せよ」(第4章)。
告発の矢は「悪質な人材派遣会社」と、規制緩和の名目でそれを許してきた政府・厚労省に向けられているが、現在の日本の労働市場は中高年派遣社員だけではなく、将来のある若年労働者をウツ病や自殺に追いやる「ブラック企業」の存在など、多くの問題を抱えており、それらを包括的・多角的に見る視点が欲しいところだ。
ただ、対象を「中高年派遣社員」に絞り込み、著者の実際の体験に裏付けられているため、その悲惨さや切迫感は生々しく伝わってくる。それにしても、日本という国は、いつから高度成長を支えてきた中高年者を使い捨てにして恥じない国になってしまったのだろうか。現在の「労働市場問題」に関わる人の必読書。 (酒)