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2015年6月 6日

【この1冊】『希望の資本論』

資本主義を相対化し、現代社会との向き合い方を示唆

c150606.png著者・池上彰、佐藤優             
朝日新聞出版、定価1100円+税


 著名ジャーナリストと元外務省主任分析官の対談形式によるマルクス『資本論』の勧めである。

トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』が脚光を浴びるとともに、マルクスの『資本論』が再び脚光を浴びている。池上氏は、東西冷戦の終了とソ連の崩壊により、「資本主義とは何だったのか、とイデオロギーにとらわれずに『資本論』を読むことができるようになった」と言い、佐藤氏は「『資本論』を読むべき最大のポイントはなにかというと、眼には見えないが確実に存在する資本の力を見きわめるということ」だと言う。

 さらに、佐藤氏は日本の左翼の「講座派」と「労農派」の流れと国際共産主義者同盟の影響を整理しつつ、「日本はマルクス主義先進国だった」と述べる。池上氏も両派の対立を乗り越えようとした宇野弘蔵の経済学を評価する。

 佐藤氏は宇野経済学を評価しながらも、「別の形で見なければいけない」とし、「資本主義はそう簡単につぶれない。相当問題があるが、とりあえずうまくつきあっていかなければいけない」と述べる。池上氏はさらに、「現代において『資本論』を学ぶことは……自分が生きている社会を相対化する力を与えてくれる」と総括する。

 時代の最先端で発言している2人の「知の巨人」の対談はきわめて刺激的である。2人の意見に賛同する人もしない人も、資本主義の将来を考えるには有益な1冊だ。 (酒)

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