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2015年5月 9日

【この1冊】『ユーミン・陽水からみゆきまで』

「そんな時代もあった」んです

c150509.jpg著者・富澤 一誠
廣済堂新書、定価800円+税

 

 松任谷(荒井)由実から中島みゆきまで、日本のフォークソング、ニューミュージック界の大御所10人がどんないきさつでデビューを果たしたのか、1960~70年当時にさかのぼって解説した「名曲誕生秘話」といった趣だ。この10人は今現在も現役として曲を発表しているアーチストが多く、息の長い活動が特徴の一つ。

 著者によると、日本のフォークは高田渡、岡林、高石ともやらの反戦フォークに始まり、吉田拓郎がそれらも含めた、若者の生き方に触れるメッセージフォークとして頂点に達した。70年代後半の石油ショックと高度成長期の終わりとともに、フォークは井上陽水、かぐや姫らの抒情性あふれる“内省フォーク”に大きく流れを変え、「ニューミュージック」として時代を席巻。数え切れないほどの名曲が生まれた。

 著者は、彼らのデビュー前から取材していたこともあって、曲がヒットするまでの各自の苦闘の歴史を知り尽くしており、読者は彼らの努力と同時にデビューまでの偶然の積み重ねがいかに大きかったかを改めて知ることになる。ファンとしては、偶然に感謝、感謝。

 理屈はともかく、お気に入りの曲を聞きながら、本書を読むと感動が増してくることは間違いない。もしかしたら、これらを知ったうえでカラオケに臨むと、点数がアップするかもしれない。もっとも、熱狂的なファンにとっては“有名な”エピソードばかりだから、「そんな時代もあったね」とただ懐かしむだけでもいい。 (のり)

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