「残業代ゼロ」は正しい考え方なのか
著者・大内 伸哉
中央経済社、定価2200円+税
副題にもあるように、本書は労働法学者によるホワイトカラー・エグゼンプション(高度プロフェッショナル制度)の導入必然論。労働者の労働時間規制について日本や欧米の歴史をたどり、日本が欧米と異なる規制になった理由を分析したうえで、現在、政府が導入を図っている同制度について提言している。
本書によると、日本の規制の大きな特徴は、法的には「1日8時間、週40時間」という絶対的上限規制がありながら、実際には「三六(さぶろく)協定」と割増賃金(残業代)制度によって骨抜きにされ、過労死もいとわない長時間労働が当たり前という、法律と現実の大きな隔たりがあるという。
割増賃金は本来、経営側にとっては一種のペナルティーであり、長時間労働の抑制効果を狙ったはずだが、多くの企業が社員の基本給を低く抑えてきたことから、働く側には収入増の誘因となり、長時間労働の土壌になるという皮肉な現象を生んだ。上限規制の厳しい欧州には法的にない制度だ。
著者は、こうした経緯を踏まえたうえで、絶対的上限、勤務間インターバル、年休取得を条件に、成果型の働き方をしている労働者については制度の適用に賛成している。「創造性が高く、付加価値を生み出すホワイトカラーが出てこなければ、日本経済の将来は暗い」として、労組側とは逆に制度の適用対象者の少ない現状こそ問題とする指摘は鋭い。
前々回に紹介した『2016年 残業代がゼロになる』では、この制度が「単なる残業代ゼロでは済まない、サラリーマンのありようを根底から覆すテーマ」と述べるにとどまっているが、本書はなぜそうなのかを詳述している点ではるかに説得力がある。両書の併読を勧めたい。 (のり)