高齢者を就業から排除する社会構造に警鐘
著者・池上 正樹
講談社現代新書、定価800円+税
著者は『ドキュメントひきこもり』(宝島社新書)という著書もある、ひきこもり事例に詳しいフリーのジャーナリストである。本書では、数多くのひきこもり事例を挙げながら、これまで子供の問題とされてきたひきこもりの「高年齢化」に警鐘を鳴らしている。
著者は、山形県や島根県などの実態調査を基に、40歳以上の潜在群を含めた「大人のひきこもり」を全国で100万人を上回ると推計。そのうえで、その背景を探るとともに、「外に出る理由」を探す様々な運動にも触れ、その第一歩が経済問題であることも正当に指摘している。
しかし、「一度会社を辞めると、社会との縁も切れてしまい、袋小路に入っていってしまう点に本質的問題」があり、その背景には「なかなかリセットすることが許されない日本の社会構造がある」という。従って、次のような状況の中で、ひきこもりが長期化、潜在化するという。
「親も子も、どうすればいいのか、誰に相談すればいいのかわからず、気持ちばかりが焦ってしまう。ハローワークを訪ねてみても、同じ求人がグルグル回る“カラ求人”(広告を目的にした求人で、実際には応募しても採用しない求人)や、非現実的な“神様スペック”(ほとんど不可能な能力や経験を条件とする求人)を求める企業が少なくない。そうこうしているうちに時間だけが過ぎていき、やがて家族ごとに地域に埋没してしまう」。
日本では就労と社会参画は密接に結びついているため、高齢者雇用、特に定年退職後の就職が難しい現実を改善しなければ、「大人のひきこもり」問題も改善しないと思われるが、ハローワークの改革など、高齢者雇用の拡大策について全く言及していない点に不満が残る。 (酒)