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2015年4月11日

【この1冊】『2016年 残業代がゼロになる』

「高度プロフェッショナル制度」に反対する理由

c150411.jpg著者・溝上 憲文
光文社、定価1400円+税

 


 政府が導入を決めた「高度プロフェッショナル(脱時間給)制度」をめぐり、賛成の経済界と反対の労働組合の対立は激しく、これに賛否両側に立つ有識者も加わって、議論は混迷の度を深めている。本書はタイトルからもわかる通り、旬のテーマについて導入反対の立場から制度批判を展開している。

 本書は「第0章 “残業代ゼロ時代”の幕開け」から「第9章 政府・財界が進める“正社員消滅計画”のすべて」に分けて、この制度がなぜ導入されようとしたのか、政界、財界、労組など関係業界の動きや経緯を克明に追っている。また、導入に必要となる労働基準法の改正内容についても、その問題点について詳細に分析している。

 著者の主張自体は明確だ。労働時間の上限規制が実質的にない今の日本の法制度下で同制度を導入すれば、「残業代ゼロ」の長時間労働が常態化し、経営側は人件費抑制の恩恵に浴するが、多くのサラリーマンは収入減に見舞われ、健康を損ないかねない「過労死大国」になる。だから絶対反対という、連合などの主張と同じものだ。法的に労働時間の上限規制がない制度欠陥を鋭く突いている。

 ただ、タイトルに象徴されるように、主要テーマを残業代の有無という狭いレンジに押し込めた結果、戦後日本に定着した労働制度・慣行がなぜ立ち行かなくなったのか、なぜホワイトカラーの生産性が低いのかという、本質的な課題がボヤけてしまった。

 「第8章 経済界が目指す“日本企業の最終形態”」などで少し触れてはいるものの、「単なる残業代ゼロでは済まない、サラリーマンのありようを根底から覆すテーマ」と述べるにとどまり、結局は「時間給」を軸にした現行制度の維持に落ち着いている。テーマの深掘りを欠いた点に不満が残る。 (のり)

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